夜勤などの交代勤務が脳の体積低下と関連:大規模データ分析から新たな知見
デューク・シンガポール国立大学のトーマス・ウェルトン氏らによる研究チームが、大規模なMRIデータを用いた縦断研究を実施し、夜勤を含むシフト勤務(交代勤務)が脳の構造に影響を与える可能性を指摘しました。本研究では、イギリスの巨大生体データベース「UK Biobank」を利用し、深刻な健康問題がない成人労働者1万4198人を分析対象としました。参加者はシフト勤務者2122人と非シフト勤務者12076人に分けられ、年齢中央値は47歳でした。研究チームは、参加者の健康、睡眠、認知、雇用に関する自己申告データと、脳の体積や神経線維の状態など153項目を比較しました。分析の結果、シフト勤務者において、右視床と左扁桃体の体積が小さい傾向が確認されました。視床は睡眠・覚醒の調節や記憶に、扁桃体は恐怖や不安などの感情反応の調整に関わる重要な部位です。研究チームは、この選択的な体積低下が、体内時計の乱れによって脳の一部が影響を受けやすい初期のサインである可能性を指摘しています。さらに注目すべき点として、シフト勤務をやめた人を追跡した結果、シフト勤務に関連する脳の体積低下が2.4年以内に停止したことが報告されました。ウェルトン氏らは、この結果から、脳構造の変化は固定されたものではなく、予防や回復の対象となり得ることを示唆し、モニタリングやカウンセリング、勤務スケジュールの調整といった対策の必要性を提言しています。
背景
シフト勤務(交代勤務)は、夜勤や早朝勤務など、通常の生活リズムから外れた時間帯での労働を指します。これにより睡眠の乱れや疲労が蓄積しやすく、認知機能や代謝疾患、神経変性疾患のリスクが高まることが知られています。本研究は、特に脳構造レベルでの影響を大規模データを用いて検証したものです。
重要用語解説
- シフト勤務(交代勤務): 夜勤や早朝勤務を含む、通常の時間帯とは異なるサイクルで働く勤務形態。睡眠リズムの乱れや体内時計の不調を引き起こしやすい。
- 視床: 脳内に位置し、睡眠と覚醒の調節、記憶の想起、体温調節など、生命維持に不可欠な情報を中継する重要な部位。
- 扁桃体: 感情、特に恐怖や不安といった強い感情の反応を調整する役割を担う脳の部位。ストレスや感情的な刺激に敏感に反応する。
今後の影響
本研究は、シフト勤務による脳構造の変化が可逆的(元に戻る可能性)であることを示唆しました。これは、単に「危険」という警告に留まらず、勤務スケジュールの調整や生活習慣の改善、カウンセリングといった具体的な予防・回復介入の根拠となり得ます。企業や公衆衛生の観点から、労働環境の改善が求められます。