13年目の火星探査車「キュリオシティ」の科学活動を支えるJPLの技術力
NASAジェット推進研究所(JPL)は、火星で13年間稼働し続けるローバー「キュリオシティ」(Mars Science Laboratory)が、いかにして継続的に科学的成果を上げているかについて詳細を語った。担当するアレクサンドラ・ホロウェイ氏によると、この長期的な活動の秘訣は、単に頑丈な設計にあるだけでなく、絶え間ないソフトウェアアップデートと運用努力によるものである。
キュリオシティはこれまでに約37キロメートルを移動し、42種類の岩石を採集・分析し、約76万3千枚の写真撮影を行ってきた。ホロウェイ氏は、このローバーの長寿命化が「驚異的」であると強調した。
技術的な工夫として、かつて発生したプロセッサ異常(NANDメモリのアノマリー)への対応事例が挙げられた。当初はコンピューターBを使用していたが、故障を避けるためコンピューターAに切り戻し、さらに記憶容量の劣化が進んだ際、本来は廃棄されるはずだったフライトソフトウェアの古いコピー(64MBのNORメモリ)を利用してシステムを再構築した。これにより、元のメモリ使用量の1%未満という極限状態ながらも、走行やデータ管理、科学活動といった主要な機能を維持することに成功した。
また、ローバーの寿命における最大の課題は「車輪の摩耗」と「電力源(RTG)の出力低下」である。ホロウェイ氏は、岩石が鋭利なバリアとなり車輪を損傷させたため、走行方向を逆転させるなどの対策をとった。電力効率化のため、活動終了時にコンピューターや暖房システムを停止する時間管理や、移動と通信などを並行して行う「パラレリズム」の導入が進められている。
今後の火星探査への影響として、ホロウェイ氏は、将来のミッション設計においては、「すべてのユーザー(オペレーター)が初期段階から参加し、必要なデータプロダクトを明確に定義すること」が最も重要だと提言している。キュリオシティは2035年頃まで科学的成果を出せる見込みであり、その活動継続への期待が高い。
背景
火星探査ローバーの運用は、地球からの遠隔操作と限られた電力・メモリ資源の中で行われる極めて高度なエンジニアリング技術を要する。キュリオシティのような長期ミッションでは、予期せぬ故障や環境変化に対応するためのソフトウェア的な「延命措置」が鍵となる。
重要用語解説
- RAD 750プロセッサ: キュリオシティなどに搭載されている高性能なコンピュータープロセッサの名称。高い信頼性と処理能力を持ちながらも、電力消費が大きい点が運用上の課題となっている。
- RTG(Radioisotope Thermoelectric Generator): 放射性同位体熱電発電機のこと。核物質の崩壊熱を利用して電気を生成する電源であり、火星探査における主要な電力源である。
- フライトソフトウェア: 宇宙探査ローバーなどの航空宇宙機器がミッション遂行のために実行する基本的な制御プログラム全体を指す。システムの生命線となる重要な要素である。
今後の影響
キュリオシティの運用成功は、将来の火星や深宇宙における長期自律型ロボット探査技術の設計基準を確立した。特に、限られたリソース(電力・メモリ)下でのソフトウェア的な再構築能力は、次世代ローバー開発に大きな指針を与えることが予想される。