中国企業がUV露光装置なしで光チップ製造に成功か:半導体サプライチェーンの自立に向けた新展開
中国のPRINANO社は、独自のナノインプリントリソグラフィ(NIL)技術を用いて、光チップウエハーの製造に成功したと発表しました。この成果は、最先端半導体製造装置市場を支配するASML製装置の輸入が困難な現状にある中国半導体業界にとって大きな進展として注目されています。
PRINANO社は2026年6月5日、SNSのWeChatを通じて、「NILを用いて8インチの光チップウエハーを製造した」と発表しました。同社によると、このプロセスでは従来の深紫外線(DUV)露光装置を使用せず、コストを約10分の1に抑えることが可能となり、光通信やLiDAR(ライダー)用途の光チップがウエハーレベルで量産化できるとして優位性をアピールしています。
一般的に微細な半導体製造にはDUVやEUV露光装置が必要ですが、オランダ政府は米国の要請を受けASML製品の対中販売を規制しており、中国国内では装置調達が課題となっています。PRINANO社の発表は、この技術的制約に対する代替案となり得ると期待されています。
しかし、専門家の間からは慎重な見方もあります。SemiAnalysisのアナリストは、NILがASMLの優位性を覆す可能性は低いと指摘しています。その理由として、真のコスト優位性は単なる安さだけでなく、「スループット(処理能力)」「テンプレート製造」「歩留まり」「プロセス統合」といった要素に依存するためであり、最先端チップ製造においてEUV露光装置に取って代わるのは難しいとしています。
PRINANO社が使用した技術は「PL-AS vacuum air-cushion nanoimprint lithography」で、10nm以下の分解能を実現しているとされています。ただし、記事内では生産量や歩留まりの検証データが開示されておらず、商業的な量産開始までの道のりも不透明です。
なお、NIL技術自体はPRINANO社以外にも研究が進んでおり、キヤノン、大日本印刷、キオクシアなどが共同開発を進めている事例もあります。また、中国国内ではASMLの元エンジニアと協力しEUV露光装置のリバースエンジニアリングに成功したとの別の報道も存在します。
背景
半導体製造技術は高度な設備投資が必要であり、特に微細化が進むにつれてASMLが提供するEUV/DUV露光装置の重要性が極めて高まっています。近年、米中間の技術覇権争いが激化し、米国政府による輸出規制(対中国販売制限)が半導体サプライチェーンに大きな影響を与えています。
重要用語解説
- ナノインプリントリソグラフィ(NIL): フォトレジストを直接スタンプのように押し当てることで回路パターンを形成する技術。DUVやEUV露光装置を使わない代替プロセスとして注目されています。
- DUV露光装置: 深紫外線(Deep Ultraviolet)を利用した半導体製造の露光装置。微細な回路パターンをシリコンウェハーに転写するために不可欠な主要設備です。
- ASML: オランダに拠点を置く、世界トップクラスの半導体露光装置メーカー。特にEUV露光装置市場で圧倒的なシェアを持っています。
今後の影響
PRINANO社の成果は、中国が外部依存から脱却し、自立した半導体サプライチェーンを構築する上で大きな技術的示唆を与えます。しかし、専門家の指摘通り、量産化の課題(歩留まりやスループット)が残るため、短期的な市場支配力の転換には至らず、今後の実証データと商業展開が鍵となります。