韓国政府が「AI for All」を推進:国産AIサービスを国民に無料で提供し、AI主権確立を目指す
韓国政府は、全国民を対象とした無料の公共AIサービス提供プロジェクト「AI for All」を本格的に推進しています。この取り組みは、単に技術提供に留まらず、アメリカや中国のAIモデルへの過度な依存を回避し、「AI主権」を確立することを最大の目的としています。
背景として、韓国はAIチャットボットの利用者が多い国の一つであり、政府は2026年においてAI関連予算として前年比3倍以上となる10兆ウォン(約1兆1700億円)を計上し、国家的なAI強国化を目指しています。
この「AI for All」の運営事業者として、携帯電話事業者のSKテレコム、通信事業者のKT、IT企業のカカオの3つのコンソーシアム(共同事業体)が選定されました。選定された各事業者は、2026年中に政府から合計512基のNVIDIA B200チップを受け取ります。サービス提供にあたっては、自社開発モデルと他社開発モデルの両方の活用が求められています。
各コンソーシアムは、独自の強みを活かしたサービス展開を計画しています。SKテレコムは、計画から実行までを処理できる「行動志向型AI」を開発し、アプリ、ウェブ、電話、SMSなど多岐にわたるチャネルでのアクセス性向上を目指します。KTは、検索エンジンや通販サイトといったパートナープラットフォームに加え、IPTVチャンネルとも提携し、単一の会話で情報検索や比較、公共・商業タスクを完結させます。カカオは、主要なメッセージングプラットフォーム「カカオトーク」を入り口とし、汎用AIチャットボットとAIエージェントを組み合わせ、年内にはAI電話サービスの簡易版や専門エージェントのマーケットプレイス展開を予定しています。
提供されるサービスは、政府システムと連携し、医師の予約、アパート探し、税務相談といった生活の根幹に関わるサポートを提供します。また、中小企業向けには税金計算や政府支援プログラムの受給資格確認が可能となり、保護者向けには子どもの教育コンテンツ提案も行われる予定です。政府は2026年9月に契約を締結し、ベータ版を経て同年中に正式サービス開始を予定しており、2027年以降も政府支援を受けながら全国展開を図る計画です。
背景
近年、AI技術は国家的な競争力の源泉となり、各国がAIインフラへの巨額投資を加速させています。韓国は、AI技術の利用率が高い一方で、特定の海外モデルへの依存度が高いという課題を抱えていました。この「AI for All」は、国内産業の活性化と、地政学的なリスクに対応するための「AI主権」確立という、国家安全保障的な側面を強く持っています。
重要用語解説
- AI主権: 国家が自国の技術やデータ、AIモデルを外部の勢力に依存せず、自立的に管理・運用できる状態を指します。AI技術の利用における自給自足を目指す概念です。
- コンソーシアム: 複数の企業や組織が特定の目的を達成するために一時的または恒久的に結成する共同事業体です。本件では、通信キャリアとIT企業が連携する形で機能しています。
- 行動志向型AI: 単なる情報提供に留まらず、ユーザーの指示に基づき、計画立案から実行(予約、購入、手続きなど)までの一連の行動を自律的に処理できる高度なAI機能のことです。
今後の影響
本プロジェクトが成功すれば、韓国のデジタルインフラは飛躍的に向上し、国民生活の利便性が劇的に高まります。また、国内のAI産業エコシステムが強化され、関連企業の成長を促します。これは、アジアにおけるAI技術の標準化モデルとなり、他の国々への波及効果も期待されます。